身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「やっぱりまだだめだよな」
柊一さんは、自身の口に当てられている私の手をそっとはがすと立ち上がり、ソファへと戻っていった。
膝に両肘をつくと、軽く組んだ両手の上にそっと顎をのせる。
「さてと、まずはどこから説明しようか」
そう呟いて少し考え込んだあとにゆっくりと口を開く。
「最初に伝えておくけど、俺はあのときの縁談相手とは結婚しなかった。だからまだ独身」
そう切り出して、柊一さんは四年前の真実と、私が彼の前から姿を消したあとのことを話してくれた。
あのとき私を社長室へ呼び出した華江社長が実は私たちの味方をしてくれていたこと。彼女の後ろ盾もあり縁談を無事に断ることができて、柊一さんは予定通りセリザワブライダルの社長になれたこと。
柊一さんの言葉で語られる四年前の真実を聞きながら、次第に私の胸が苦しくなる。もしかしたら、あのときの私の選択は間違っていたのかもしれない。
柊一さんが縁談をうまく断ることができて、無事に社長にも就任できたのなら、私が彼のもとを離れる必要はなかったのでは?
でも、それはすべてがうまく収まってからだからこそ思えたこと。結果論に過ぎない。