身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
『来月、うちの会社の新作ドレスショーがあるからおいで。入手困難のレアチケットだぞ』
そう言われて、私は手元のチケットをじっと見つめる。
それは、年に二回開催されるセリザワブライダルのオリジナルドレスの新作発表会の観覧チケットだった。
私がまだセリザワブライダルにいたときから女性たちにとても人気なドレスショーだったけれど、たぶんあの頃よりもさらに人気が増しているのだろう。そんな貴重なチケットを私は片手でそっと封筒に戻した。
「いりません。行けないので」
『どうして? 日曜は仕事休みだろ』
「休みですけど、冬真がいるので」
『冬真は俺が預かるよ。その間、美桜はショーを見ればいい』
すぐにそう切り返されて言葉に詰まる。正直なところドレスショーに行けない理由は冬真だけじゃない。たぶん、あの場所に行くと私はつらくなってしまうから……。
「まだ一度しか会ったことがない柊一さんに冬真を預けるのは不安です」
『まぁ、たしかにそうだけど、はっきり言われると傷付くな。俺はすっかり冬真を預かる気でいたんだが』
「とにかく、ドレスショーには行きませんのでチケットはお返しします」
伝えたかったことはしっかりと伝えたので電話を切ろうとした。けれど……。