身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
冬真と一緒に手を洗ってから、スーパーで買った食材を冷蔵庫に詰め込んでいると、リビングの方で冬真がリュックの中身を漁っている様子が目に入る。「あった!」と元気な声が聞こえて、冬真がこちらに向かってパタパタと走ってくる。
「ママ、見て!」
その手には小さく折られた白い画用紙が握られていて、おそらく保育園で描いた絵だろう。私は、冷蔵庫の扉を閉めると、冬真の目線に合わせるようにしゃがみ込む。
「その前に、ママが大事なお話をしてもいい?」
真面目な表情でそう問い掛けると、冬真は「うん」と小さくうなずく。さっきまで私に絵を見せようとはしゃいでいたのに、突然しゅんと大人しくなった。
「今日、冬真は瑠衣君の描いた絵をクレヨンでぐちゃぐちゃにしちゃったんだよね。ママ、先生から聞いたよ」
「……うん」
「お友達の絵にそういうことしたらいけないよね。冬真も同じことをされたら悲しいでしょ?」
「……うん」
「それじゃあもうそういうことはしたらいけないよ」
「……うん」
冬真の目を見つめながら声を掛けると、冬真もまた私の目をしっかりと見つめてうなずいていた。
その瞳に次第に涙がたまっていくのがわかり、少し強く言い過ぎたかなと心配になっていると、「でも……」と冬真が震える声で口を開く。