身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「これだからひとり親の子供はしつけがなっていないのよ。愛情が足りていないんじゃないのかしら。見た感じだとあなたまだ若そうだし、しっかりとひとりで子育てできているの? 心配だわ」
瑠衣君のお母さんの言葉が鋭いナイフのように胸に突き刺さった。心配という言葉でしめくくっているが、言葉にはあからさまな悪意しか感じられない。
たしかに冬真が瑠衣君の描いた絵をクレヨンでぐちゃぐちゃに塗り潰してしまったのはよくないことだ。でも、その行動の原因をひとり親だからしつけがなっていないと決めつけられたことが悲しい。
「冬真君には家に帰ってからよく注意してくださいよ」
それだけ告げて、瑠衣君のお母さんは瑠衣君の手を引いてこの場を去って行く。この状況をなにも理解していない子供たちだけが無邪気にバイバイと手を振っている姿を見て、なんだか胸が痛んだ。
「ママ、帰ろう」
ぼんやりと立ち尽くしていると、冬真が私のレインコートをつんつんと引っ張る。
「うん、帰ろうか。お買い物に寄ってもいいかな」
「いいよ。なに買うの? おにく? おさかな?」
「うーん、どうしようかな」
私は自転車にまたがると、ゆっくりと漕ぎ始める。
それからスーパーに立ち寄って、買い物をすませると、アパートへと帰った。