身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

「あっ、パパだ!」

 式場に到着すると、入口の重厚な門の前にスーツ姿の柊一さんを見つけた。

 さっそく冬真が嬉しそうに走り出すと、にこにこと駆け寄っていく息子を柊一さんが愛しそうに抱きとめる。

「こんにちは、冬真」

 冬真を抱っこした柊一さんの視線が、少し遅れてふたりのもとに到着した私に向けられた。

「美桜も、今日は来てくれてありがとう」
「いえ……」

 なんとなく視線を合わせられなくてうつむいてしまう。

 私が今日、夢を諦めるためにここへ来たなんて、柊一さんはきっと気付いていないと思う。

 彼は、私が再び夢を追いかけるための力を貸してくれようとしている。今日のドレスショーもそのつもりで私を招待してくれたはずだ。そんな彼の気持ちを踏みにじるようで胸が痛むけれど、いい加減に私も夢を諦めないといけない。

「それじゃあここからは俺が冬真を預かるから、美桜は会場に行きな。開始までまだ一時間以上あるけどそろそろ受付が始まるし、ドレスの展示もしてあるからそれを見ていればあっという間に時間なんて過ぎるだろ」
「はい。でも、本当にいいんですか?」

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