身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない
「話したいことがあるから、必ずそこに連絡してほしいそうよ」
右手に持った名刺をじっと見つめていると、牧子さんがそっと教えてくれた。それから、少し言いづらそうに言葉を続ける。
「あのね、もしも私が余計なことを喋ってしまっていたらごめんなさい。その名刺を渡される前に、社長さんと冬真君のことで少しお話したのよ」
「冬真のことを?」
動揺が一気に大きくなった。それをなるべく隠しながら、牧子さんの続きの言葉に耳を傾ける。
「配達のときに、美桜ちゃんが社長さんと話をしていたら冬真君の保育園からお迎えの電話があったのよね?」
「はい」
「それで、その話題になったんだけど、社長さんが〝子供がまだ一歳前なのに働きながらの育児は大変そうですね〟って美桜ちゃんの心配をしていたのよ。だから私〝違いますよ。美桜ちゃんのお子さんは今年で四歳ですよ〟って、言っちゃったんだけど……大丈夫だった?」
牧子さんが私の反応を伺うように尋ねてくる。
「それを聞いた社長さんがとても驚いた顔をして固まってしまったから。もしかして私、余計なこと言っちゃったのかしらとちょっと心配になって――」
途中から牧子さんの声が耳に届かなくなった。さっと血の気が引いていくのがわかる。