身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

「私、以前セリザワブライダルの本社に勤務していたので、社長とも面識があります」
「あら。美桜ちゃん、セリザワブライダルで働いていたのね」

 アマドゥールの面接を受けるときに履歴書にしっかりと書いたけれど、どうやら牧子さんの記憶には残っていないらしい。

 それよりも、どうして柊一さんがアマドゥールに……?

 あの日、私は彼に勤務先を教えていない。ただ『マドレーヌの配達に来た』と、曖昧に答えただけ。

 でも、もしかしたらそれだけで十分なヒントを与えてしまったのかもしれない。式場のスタッフに確かめれば、マドレーヌがどこのお店の商品かなんてすぐにわかるのに。

 すると、牧子さんがエプロンのポケットから小さな紙を取り出した。それを私に手渡す。

「これ、社長さんから。美桜ちゃんに渡してほしいって頼まれたの」

 受け取ったそれは、セリザワブライダルのロゴマークの入った名刺だった。


【セリザワブライダル 代表取締役社長 芹沢柊一】


 裏にはおそらく柊一さんの連絡先であろう番号とアドレスが書かれている。

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