身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

「よしっ! 開店まであと二十分だ。美桜ちゃんはここにあるケーキをショーケースに並べておいて」
「わかりました」

 治さんの指示に笑顔で返事をすると、私は出来立てのケーキが並ぶトレーを両手に持ち、売り場へと向かった。

 私には女手ひとつで育てている大切なひとり息子――冬真がいる。強い日差しが照り付ける八月の夏生まれで、今は三歳八か月。

 仕事中は保育園に預けているのだけれど、赤ちゃんの頃からよく風邪を引く子で、頻繁に熱を出してしまう。

 ここ数日の間もずっと微熱が続いていて、今朝ようやく平熱に戻ったばかりだ。咳や鼻水、くしゃみなどの症状もなく元気いっぱいだったので今日は普通に登園させたけれど大丈夫だろうか。熱がぶり返さなければいいけれど。

 冬真のことを心配しつつ、アマドゥールのカウンターで接客を続けていると、あっという間にお昼休憩の時間になった。

 昼食は、店舗の二階にある木崎さん夫婦の自宅の一室をお借りして、持参したお弁当を食べている。お弁当といっても大したおかずは入っていなくて、いつもだいたい前日の夕食の残り物を詰めることが多い。

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