身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

『右足みせて』

 ストッキングも脱ぎ捨てた裸足の足をおずおずと芹沢課長の方に向ける。腫れた足首をまずは軽く冷やすと、慣れた手つきでテーピングを巻いてくれる。

 どうやら芹沢課長は学生時代にバスケをしていたらしく、その頃に今の私と同じように足首を痛めたことがあり、処置には慣れているらしい。

『さっきも聞いたけど、どうして足を痛めてることをずっと黙ってたんだ』

 手を動かしながら、芹沢課長が不意に口を開いた。その口調には少しの苛立ちが含まれていて、空気がピリリッと引き締まる。

『すみません。芹沢課長に迷惑を掛けてしまうと思って』
『それでずっと我慢してたのか? この状態で出張に来られる方がよっぽど迷惑だ』

 全くもってその通りだ。反論する言葉もなく『すみません』と力なく謝罪した。

『お前が足首痛めてることを知っていたら気遣うことだってできたし、そもそも出張になんて連れてこなかった』

 そう告げた芹沢課長が大きなため息を吐き出す。

『だいたいお前は他人に遠慮し過ぎだ。そんなんだからパソコンソフトの使い方をろくに教えてもらえなくても、なにも言い返せないんだろ』
『え? 芹沢課長、知っていたんですか』

 私が、マニュアルだけを渡されて使い方の説明をしてもらっていないことを……。

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