身を引くはずが、一途な御曹司はママと息子を溺愛して離さない

〝芹沢課長、縁談を断ったらしいよ〟

　思い出してしまうのはあの噂。

〝縁談を断るなら、セリザワブライダルの社長就任も白紙にするし、芹沢グループの後継者候補からも外されちゃうんだって〟

　それは、本当なのだろうか。

　どうしてそんな大事な縁談を断ってまで、私にプロポーズをしているのだろう。この先も私と一緒にいたって柊一さんのためにはならないはずなのに……。

『――ごめんなさい。結婚は、できません』

　伝えたかった言葉をぐっと飲み込んで、私は深く頭を下げた。

『理由は？』

　冷静な柊一さんの声が耳に届いて、そっと顔を上げる。

『俺のプロポーズを断る理由はなんだ』
『それは……』

　その問いに対する返事ができず、私は口を閉じた。膝の上に置いている手でチュールのスカートをきゅっと強く握りしめる。

『プロポーズを断った理由は、柊一さんが……』
『俺が？』
『えっと……その……』
『俺がなに？』

　理由をなかなか言い出さない私に柊一さんが軽くため息をつく。