愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
私お気に入りのお好み焼き屋さんは、テーブルに備え付けられた鉄板に自分で生地を広げて焼くスタイルのお店だ。特に学生に人気のある店で、お好み焼きのボリュームも学生向けに大きくお得になっている。

日下さんはお好み焼きを焼いたことがないというので、ここはこの店経験者の私が焼くことになった。

そして今、私は左右の手にヘラを持ちお好み焼きをひっくり返すタイミングを見計らっている。

「芽生、ちょっと大きくない?」

「いや、きっと大丈夫です。いけますって」

普通のお好み焼きよりもボリュームがあるとはいえ、調子にのって大きく広げすぎたようだ。

「いざっ!せーのっ!」

ヘラを差し込み、私は一息にお好み焼きをひっくり返した。と思ったのだが、やはり大きすぎたのか途中で半分に割れてぐしゃりと落ちてしまった。

慌ててヘラで整えるも、見るも無惨な形に日下さんは口元を覆って横を向く。

「た、食べれば一緒ですよっ」

「芽生、面白いね」

そう言ってくれたので、私の失敗を笑ってくれているのかと思ったけれど、その笑顔は何だか悲しそうだった。

やっぱり私なんかじゃ日下さんを笑顔にできないのかな。

ふとそんな想いが頭を過ったが、それを断ち切るように首を横に振る。
頑張れ私!
< 72 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop