愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
ソースをたっぷり塗って青のりと鰹節をかけると、ぐちゃっと崩れていたお好み焼きも美味しそうな見映えになった。

「ほら、焼けましたよ。食べましょう」

一枚のお好み焼きをヘラで切り分けてシェアして食べる。まるで恋人みたいな感覚に私の心は弾んだ。

「んー、美味しい！ね、日下さん」

日下さんに同意を求めると同時に、日下さんの目からぽろっと涙がこぼれた。

「日下さん？」

「え、ああ、ごめん」

日下さんは自分でも驚いたように頬に流れた涙を拭う。悲しげな顔をする日下さんはうつむき、私は心配になって箸を置いた。だけどかける言葉が見つからない。

やがて日下さんの方から静かに口を開いた。

「……芽生を見てると思い出してしまうんだ。香苗のこと」

「かなえ……さん？」

「亡くなった妻のこと。芽生は香苗みたいに笑うから、何か、調子が狂うっていうか。……ごめん」

そう言うと、日下さんは何かを考えるように目を伏せた。

初めて日下さんの口から奥様の話が出て、嬉しいような悲しいような、どうしようもない感情が溢れてくる。

もっと詳しく知りたいような……知りたくないような……。
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