愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
空になったグラスをお水に交換しながらママが言う。

「んー、そうね、芽生ちゃんの気持ちもわかるわよ。誰だって好きな人の一番になりたいわよ。でもね、暁ちゃんと香苗ちゃんは夫婦なの。別れたわけじゃないの。不幸にもお亡くなりになっただけなのよ。暁ちゃんの記憶を消すことはできないのよ。暁ちゃんが香苗ちゃんを大事にしてるのは当たり前なんじゃないの?」

「でも……」

「アンタたちの間に何があったかは知らないけどさ、香苗ちゃんが亡くなってからずっと塞ぎこんでた暁ちゃんが自分の力で立ち直って、前へ進もうと努力してきた。アタシはそれを見てきたから応援したいのよね。芽生ちゃんが暁ちゃんを好きなように、暁ちゃんも芽生ちゃんへ明らかに好意を寄せてる。アンタたちお似合いだと思うわよ」

「まさか?」

「アンタはもっと自信を持ちなさい。香苗ちゃんと比べてるのは暁ちゃんより案外アンタなんじゃないの?アタシ一押しの良い子なんだから、こんなことくらいで落ち込んでんじゃないわよっ。落ち込むくらいならさっさと諦めな」

「ママ、キツイ~」

引っ込みかけていた涙がまたこぼれ落ち、私は両手で顔を覆った。

「はあ?どこがキツいのよ。優しいでしょうが!」

「もっと優しくてよ」

私は涙でぐしゃぐしゃのまま、悔し紛れにママに文句を言う。
だけどママの言葉は胸に響いた。

───香苗ちゃんと比べてるのは暁ちゃんより案外アンタなんじゃないの?

その通りだよ、ママ。
私が、比べちゃうんだ。
薄々気づいていた。
ただ認めたくなかったの。

香苗さんの存在が大きすぎて、いつだって自信がない。日下さんのせいにして自分を正当化してた。私の方こそ日下さんを通して、よく知りもしない香苗さんのことを想像して勝手に落ち込んでいたんだ。
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