愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
俺は仕事をすべて放り出して芽生のアパートへ向かった。芽生のアパートへは一度だけ行ったことがある。芽生が金木犀で酔っぱらって寝てしまったときだ。あのとき芽生を送り届けてよかったと今になって思う。なぜなら俺たちは連絡先を交換していないのだ。電話をかけようにも何も情報がない。アパートを知っていることが唯一の情報だ。

「ああ、くそっ」

やけにアパートが遠く感じる。
電車だって時間通り駅に止まり、時間通り発車しているというのに。そんな当たり前のことすら煩わしく、芽生への道程が遠いのだ。

今ほど後悔したことはない。
俺は芽生に好かれていることをいいことに芽生の気持ちを蔑ろにしてきたんだ。

今になって分かるなんて、どうかしている。

”俺は芽生のことが好きなんだ”

芽生に会いたい。
今すぐに会いたい。

芽生……!

芽生への気持ちが高まる中、ようやくアパートへ辿り着いた俺は緊張しながら階段を上る。三階建ての古びたマンションは女性が住むには可愛らしさの欠片も感じられないけれど、一度お邪魔した芽生の部屋は女の子らしい淡い色合いだったことを思い出した。
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