愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
芽生に謝りたい。

そう決意したのに、翌日芽生は会社に来なかった。
そして次の日も、その次の日も。

謝る機会を失ってすでに五日が過ぎた。
芽生が会社を休むことなんてほとんどない。仕事人間で残業なんて俺と競うくらいにしているのに。一体どうしたというのか。

一週間経った月曜日、やはり芽生は会社に来なかった。気にしているのは俺だけのようで、職場は特にザワつくこともなくいつも通りだ。

「あの、新井さん。西尾さんずっと休んでるみたいだけどどうかしましたか?」

「あら、日下くん知らなかった?」

新井さんは声のトーンを落とす。

「芽生ちゃん、先週事故にあってね。しばらく出勤できないみたいよ」

「事故?」

「そう、交通事故。信号無視の車に突っ込まれたんですって。怖いわよねぇ」

新井さんは自分の両腕を抱きしめて、大げさに身震いした。

サッと血の気が引いていく思いがした。
そんなの聞いていない。
なぜ俺に連絡してこないんだ。
連絡できないほどひどい状態なのか?

自席に戻っても仕事が手につかず、頭の中は芽生のことでいっぱいだ。心配でたまらずいてもたってもいられない。悪いことばかりが浮かんで不安を煽っていく。

「ちょっと、日下くん顔色悪いわよ?」

「……すみません、帰っていいですか?」

「え、何?そんなに体調悪いの?早く帰って休みなさい」

よほど俺の顔色が悪かったのか、仕事に厳しい曽我さんもすぐに早退の許可を出してくれた。
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