光を掴んだその先に。─After story─




「わ、忘れ物を取りに来ただけっ!もう帰るところでっ、それでっ───…わぁっ!」



そのまま向かってきたと思えば、ひょいっと抱えられて。

変わらない香水の匂いに酔いそうになり…。


リビングまで待てなかったのか、玄関から近い寝室へと運ばれた。



「わっ、もうっ、かえる…からっ」



ポスッと跳ねる身体。

同じタイミングで髪ゴムが外されて、散らばる髪の毛。

すべてを逃がさぬよう覆い被さってくる。


そんな一瞬、泣きそうな顔が見えたような気がした。



「もう来てくれねえかと思った……、」



弱々しい…。

この人にしては、なんてか細い声なんだろう。



「絃織こそ…なんでこんなに早く…」


「俺も忘れ物があって、取りにきた」


「大事な資料とかなんじゃないの…?」


「問題ない。…明日に回せる」


「だめだよっ!またいろいろ言われちゃうよ!!」



それでも退こうとしない。

それどころか首筋に顔を埋めるように抱きしめてくる。


千春さんの告白の日以来だ、こうして抱きしめられたのは。



「んっ…!…んんっ、ふ…っ」



それは優しいものではなかった。

荒く激しくて、それなのにとろけてしまいそうなもので。


誕生日の日、きっとこんな時間があったはずなのに。

……やっぱり頭に出てくるあの存在。



「いお…っ、ひゃぁ…っ、」



ショートパンツだったからこそ、また太腿を直に撫でられた。

もぞっと身体を捻らせたとしても効果はない。


むしろ熱い吐息が唇の隙間から漏れては、静かな部屋に響くだけだ。



< 98 / 192 >

この作品をシェア

pagetop