光を掴んだその先に。─After story─
───ガチャ。
ゆっくり開けてみた。
極力、音を立てないように回したドア。
「……お、お邪魔しまーす、」
来てしまった…。
どうしようどうしようと迷ってたら、気づけばこのマンションに辿り着いていて。
そうだ、そもそもここに用はあったのだ。
3日後に控えた二次面接。
そのときナチュラルにメイクをしていこうと思っていて。
「…やっぱりいないよね……、」
そりゃそうだ。
ちょっと期待しちゃってたけど。
キッチンへ向かえば、あの日カレーが入っていた鍋は綺麗に洗って立てられていた。
「…楽しみにしてたのに」
いろいろ楽しみにしてた。
一緒に食べたかった。
もちろん“1人で食べた”と強調してくれて嬉しかったけど…。
「あーーー!出てくるっ!忘れたいのに出てくるっ!」
千春さんの鼻で笑うあの顔が。
ソファーに並んで座って微笑んでいた絃織の顔が。
手にしたカップアイスが。
ここに入っただけであの日の情景がぶわーっと。
「帰るっ!もう当分こないっ!」
メイク道具をリュックに詰め込んで、足音を少々強めに響かせて玄関へ向かう。
どうせ防音なんだから許される。
……いや、床は防音じゃなくない…?
「いーのっ!今日だけなんだからっ!」
ほら、こんな大声で叫んだって言葉は返ってこない。
そんなものがどこか寂しくて嫌になる。
───ガチャッ。
そんな音は私が靴を履こうとしているときに響いたものだった。
「…お前、なんで、」
鉢合わせた。
まさかの鉢合わせだ。
こんなことってある……?
この人こそ、どうしてこんなに早くに帰宅してるの…?