光を掴んだその先に。─After story─




───ガチャ。


ゆっくり開けてみた。

極力、音を立てないように回したドア。



「……お、お邪魔しまーす、」



来てしまった…。

どうしようどうしようと迷ってたら、気づけばこのマンションに辿り着いていて。


そうだ、そもそもここに用はあったのだ。

3日後に控えた二次面接。

そのときナチュラルにメイクをしていこうと思っていて。



「…やっぱりいないよね……、」



そりゃそうだ。
ちょっと期待しちゃってたけど。

キッチンへ向かえば、あの日カレーが入っていた鍋は綺麗に洗って立てられていた。



「…楽しみにしてたのに」



いろいろ楽しみにしてた。
一緒に食べたかった。

もちろん“1人で食べた”と強調してくれて嬉しかったけど…。



「あーーー!出てくるっ!忘れたいのに出てくるっ!」



千春さんの鼻で笑うあの顔が。

ソファーに並んで座って微笑んでいた絃織の顔が。

手にしたカップアイスが。


ここに入っただけであの日の情景がぶわーっと。



「帰るっ!もう当分こないっ!」



メイク道具をリュックに詰め込んで、足音を少々強めに響かせて玄関へ向かう。


どうせ防音なんだから許される。

……いや、床は防音じゃなくない…?



「いーのっ!今日だけなんだからっ!」



ほら、こんな大声で叫んだって言葉は返ってこない。

そんなものがどこか寂しくて嫌になる。


───ガチャッ。


そんな音は私が靴を履こうとしているときに響いたものだった。



「…お前、なんで、」



鉢合わせた。
まさかの鉢合わせだ。

こんなことってある……?


この人こそ、どうしてこんなに早くに帰宅してるの…?



< 97 / 192 >

この作品をシェア

pagetop