内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
「お父さんは、本当に宇月が好きだったわ」
 墓参りが終わり、三人は再び階段を下りてきた。
 小さな売店でアイスクリームを買い、すぐそばのベンチに腰を下ろして、大和に食べさせながら、母が静かに口を開いた。
「宇月にたくさんの人が来てくれるのをなによりも望んでいたの。たくさんの人に宇月の魅力を知ってもらいたいって、でも……」
 そこで母は言葉を切って、小さくため息をついた。
「宇月ランドの誘致には反対だったの。むやみやたらに開発を進めたら宇月のよさがなくなってしまうって。開発なんかしなくても宇月はそのままで十分魅力的なんだからって。それで天沢ホテル誘致の話が持ち上がった時、賛成したのよ」
 大和の口からはみ出たアイスクリームを拭きながら祐奈は母の話に耳を傾ける。
 あの時父がどうして天沢ホテル誘致賛成派に回ったのか、詳しい事情を母から聞くのは初めてだった。
「天沢ホテルは、由緒あるホテルだから来てもらうだけでも宇月の知名度が上がる。そしたら他のホテルにだって絶対にいい影響が出るって信じていたのよ。天沢さんとお酒を飲みながら、話しているのを何度も聞いたわ」
 宇月の魅力をどう発信していくのかは、役場の観光課がいつも抱えている課題だった。あの手この手の戦略は今のところまだあまり成功しているとはいえない。
 でもあの天沢ホテルがオープンするというだけで、テレビや雑誌に取り上げられる。開発なんかしなくても、そのままの宇月のよさを、たくさんの人に知ってもらえる。
「天沢さんとお父さんは東京の大学時代の同窓生で、お互いにホテルの跡継ぎという立場だったから、気が合ったって言ってたわ。こんなに自分と話が合うやつはいないって。ふふふ、お父さん仕事大好き人間だったから……」
 母の話を聞きながら、祐奈は在りし日の父を思い出していた。
 忙しくて、家族で出かけることなどほとんどできない生活だったけれど、それでもそれを不満に思ったことはなかった。
 秋月旅館は祐奈にとっても温かい大好きな場所で、そこで働く両親をなによりも誇りに思っていたから。
「……お父さんのお通夜の日」
 でもそこで母の声が低くなる。
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