内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 いくら個人的に親しくても職場を訪ねるなんて。
 目の前の女性は残念そうに眉を下げて、「申し訳ありませんが、アポイントのない方はお取り継ぎできません」と言う。
 あたりまえだ。
 天沢ホテルの副社長が、アポイントなしで来た相手に会うわけがない。
 ことづけをお願いしても、彼まで伝わるかどうか。
 それにしても。
 目の前の女性は、心の中では祐奈のことを不審に思っているに違いないのに、それを微塵も感じさせないところは、さすが一流ホテル会社の受付だ。
 同じような仕事をしている者として妙に感心しながら、祐奈は考え込む。
 そしてやはりこの辺りで彼の携帯が繋がるまで待つしかないかと思った時。
 受付の後ろのドアが開き、制服の女性がもうひとり出てくる。
 それを何気なく目で追って、祐奈は息を呑んだ。
 奈々美だった。
 明るい色の髪はまとめられて、受付の制服を着ているから、先日とは少し印象が違うけれど、間違いない。
 奈々美の方も、祐奈に気付いた。
 眉を寄せてそのままそこで立ち止まっている。
 突然の奈々美の登場に、祐奈の背中を冷たいなにかがつーと伝う。
 大雅に会いたくて無我夢中だったから、彼女が大雅と同じ場所で働いているということを、すっかり忘れてしまっていた。
 でもまさか、こんなにどんぴしゃりで顔を合わせてしまうなんて。
 しばらくの間、ふたりは言葉を失って対峙する。先に口を開いたのは奈々美だった。
「こんにちは、秋月さん」
 受付の女性が振り返って、首を傾げた。
「大泉さん、お知り合いですか?」
< 136 / 163 >

この作品をシェア

pagetop