内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 ところどころから湯けむりが上がる温泉街は、午後の日差しに照らされて穏やかな時間を刻んでいる。
 黒い髪を風になびかせながら、大雅が静かに口を開いた。
「……君の、息子の父親は誰だ?」
「っつ……!」
 祐奈の心臓がどくんと跳ねて、ばくばくと嫌な音で鳴り始める。ひとりでに震えだす身体を止めたくて、自分自身を抱きしめた。
 これもまた、絶対に知られてはいけない秘密だった。
 穏やかな大和との生活をなんとしても守りたい。
 答えられない祐奈の肩に、大雅がそっと手を置いた。そして祐奈を安心させるように優しい声音で語りかけた。
「大丈夫だ、祐奈。本当のことを話しても絶対に君が思うようなことにはならない。不安になる必要はない。俺はもう二度と、君を傷つけない」
 それでも祐奈は答えられない。
 沈黙の二年間が重く胸にのしかかり、祐奈の心の扉を固く閉ざした。
 再会したばかりの彼を信じ切る勇気はまだ持てない。
「……帰らせてください」
 祐奈は声を絞り出す。
「私、残業はできないんです。……お迎えに行かなきゃ」
 無性に大和に会いたかった。
 祐奈を見つけると嬉しそうに輝く瞳、随分重くなった身体を抱いて、晴れた日の原っぱのような香りを胸いっぱいに感じたい。
 そしてなにも考えずにふたりで布団に潜り込み、くっついたまま眠るのだ。
「……五時には、役場に送るってあなたは約束してくれた」
 言いながら空を見上げると、もう日が傾きかけている。
 大雅が目を閉じて、「わかった」と呟いた。

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