内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
大雅の決意
 祐奈と話をした日から二週間後の木曜日、天沢ホテルの役員専用会議室で定例の取締役会が行われている。
「では次、宇月温泉の土地買収の件について」
 社長である父の言葉に、大雅は手元のタブレットをスライドさせて口を開いた。
「問題なく進んでいます。遊具の撤去に関しては……」
 大雅の報告に宗久は耳を傾けて、満足げに頷いている。
 そしてひと通りの報告が終わると、少し考えてから口を開いた。
「なるほど……じゃあ、決まりだな」
「そうですね。全国的にはあまり知られていない土地ですが、都心からのアクセスがいいのに加えて温泉地としてのポテンシャルが高い。うちが進出すれば、知名度も上がるでしょう」
「だが、気を抜かないように。地元旅館組合の反発はどうだ? ……十年前はそれがかなりネックになった」
「今回は特には。もともと宇月ランドの件については地元も頭を悩ませていたようですから」
「融資銀行はどこを使う?」
「アスター銀行です。メインバンクではないですが、別館天沢事業の融資に加わりたいと頭取から直接依頼を受けまして。別館天沢事業には複数の銀行に関わってもらっていますが、もうひとつくらい増やしたいと思っていましたから、お受けしました」
 宗久は頷いて「わかった」と言った。
 だがすぐにまた思い出したように口を開いた。
「アスター銀行といえば頭取の娘さんとお前は、縁談があったんじゃなかったか?」
 突然、プライベートの話をしだした父に、大雅は一瞬戸惑いながら、その答えを口にする。
「ええ、まぁ……。ただそれに関しては、すでにお断りしております」
「だが、ご息女はまだお前の秘書室に所属していると聞くが」
 父からの問いかけに大雅は心の中でため息をついた。
「社会勉強をさせてほしいと言われておりまして、お預かりしております」
「先方はまだそのつもりなんじゃないのか」
「……だとしても、大丈夫です。この件と宇月温泉の件は切り離して考えてくださいと頭取にはなん度もお伝えしております。今回の融資に限らず、うちとしてはアスター銀行でないといけない理由はありませんから。……そのあたりも大泉頭取はよくわかっていらっしゃるはずです」
 宗久は今度こそ安堵したように頷いた。
「じゃあ、採決を取ろう。宇月温泉買収の件について……」
 議案は問題なく承認された。
 取締役役会が終わると宗久は一番先に部屋を出てゆく。
 その背中を見送る大雅の肩を常務の山下が叩いた。
「おつかれ」
「おつかれ様です」
 彼は古参の役員で、社長のよき相談相手だ。
 若くして副社長という責務を負う大雅にとっても頼りになる存在だった。
「社長も宇月の件に関しては気合が入っとるな」
 大雅は頷いた。
「そのようですね」
「雪辱を果たしたいんだろう」
 少し意外な山下の言葉に大雅は首を傾げつつ彼を見た。
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