内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
 天沢ホテルは創業は明治にまで遡る由緒あるホテルだ。
 皇族や外国からの要人も多く訪れることで知られている。
「そのことに、自分でも気が付かないうちに少し疲れていたんだと思う。祐奈と出会った時、君に惹かれている自分を感じて、咄嗟に嘘をついてしまった。本当のことを話したらきっと君も天沢の看板を通して俺を見るようになってしまう。……それが、怖くて」
「大雅……」
"そんなことなかったのに"とは、祐奈には言えなかった。
 出会ってすぐに彼があの宗久の息子だと知っていたら、祐奈は彼に近づかなかったに違いない。
 たとえ父親との因縁がなくても、それは同じことだった。
 まがりなりにも当時の祐奈はホテル業界の人間で、天沢ホテルの御曹司とフロント係でしかない自分が、釣り合わないということくらいは知っていた。
 大雅がため息をついて、祐奈に視線を移した。
「でもそれは、君を信用していなかったからだ。君を愛してると言いながら、俺は……俺は信用できる人間じゃなかったのに……本当に……ごめん」
 頭を下げて絞り出すように言う大雅に、祐奈の胸は締め付けられる。
 再会して、副社長としての彼を見た祐奈には、彼を責めることはできなかった。
 常に神経を張り詰めて、巨額の取引に挑み続ける重圧は、祐奈には想像もつかないものに違いない。
 いっとき、少しだけ、なにかに逃げたくなったとして、それを誰が責められるというのだろう。
 祐奈はふるふると首を振る。
「大雅、……もういいわ、謝らないで。私もう、怒っていない」
 その言葉に大雅が小さく息を吐いた。
「うん……ありがとう」
 確かに彼は嘘をついた。
 でもそうされなかったら祐奈は彼を愛することはなかったし、大和も生まれてこなかった。
 不思議な、不思議な巡り合わせ。
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