内緒の赤ちゃんごとエリート御曹司に最愛を刻まれました~極上シークレットベビー~
『あなたが、あなたであることに変わりはない』
 宇月ランド跡地で叫ぶように彼女が放ったあの言葉となにか関係があるのだろうか……。
 その時、ノックの音がして山城が入室する。そしてスケジュールについて話し出した。
「副社長、宇月ランド跡地の不動産決済の日が決まりました」
 大雅は黒い椅子に腰を下ろして頷いた。
「そうか、いつだ」
「一カ月後の八月十日です。お盆休み前に、ということで」
「場所は?」
「アスター銀行東日本中央支店です。県庁所在地にあります」
「宇月からは少し遠いな……」
 大雅は呟いて考え込んだ。土地が自社の名義になる不動産決済が終わったら、その日のうちに現地へ行くのがいつもの大雅のやり方だった。
 土地買収からホテル開業までは、やることは山ほどある。そしてその期間を一日でも短くするのが、最大のコストダウンだ。
 だから普段なら決済後すぐ現地入りして滞りなく整地作業が開始したかを確認する。
 今回に関してはまず遊具の解体作業だが……。
「アスター銀行は宇月には支店がありませんから……。また当日は頭取もご出席されるとのことで、一番近い中核支店になったようです。それからまだお伝えはしていませんでしたが、その日副社長には夕方から都内で開かれる会合にご出席いただこうと思っておりまして……」
 やや申し訳なさそうに言う山城の言葉に、大雅は納得して頷いた。
「なるほど、じゃあ今回は諦めよう。解体業者にはしっかり頼むと伝えてくれ」
「わかりました」
 山城が頭を下げる。そして思い出しようにまた口を開いた。
「副社長、その日ですが大泉さんを同行させてもよろしいですか?」
 思いもしなかった名前が出て、大雅は一瞬眉をひそめる。だがすぐに、彼女がアスター銀行大泉頭取の娘だったと思い出し、小さくため息をついた。
 山城はなにも言わないが、おそらくこの話、彼女が言い出したことなのだろう。社会勉強の成果を父親に見てもらいたいといったところか。
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