【完】片手間にキスをしないで
「え、嘘だろ。あいつやられた?子ウサギちゃんの蹴りで?」
「んなわけねぇだろ……つか、それより何なんだよ、あの男」
「あぁ、お前のふっとい腕、簡単に捻り上げてたもんな」
「……っせぇ。たまたまだ。次あったら絶対逃がさねぇ」
夜空に照らされるは、花谷通り。
アルコールの濃度が高くなっていくのに相まって、人々の往来も激しくなる。
その一角で、倒れ込んだ1人の男を囲う輩たち。
一瞬の戸惑いを見計らい、逃げ出した奈央と夏杏耶には、交わされていた会話の内容など知る由もなかった。
「何言ってんの。ダメだよ、あの2人には乱暴したら」
「アユセ……何でだよ、あいつ俺の腕を」
「気持ちは分かるけどダメだ。そもそも、ウサギちゃんを否応なしに連れ出した俺らも悪かったでしょ?」
「まぁ……そうかもしんねぇけど、」
「それに」
───やっと会えたんだから……ね?奈央。
知る由もなかったんだ。
フードを深くかぶったアユセが、心底嬉しそうに微笑んでいたことも。