【完】片手間にキスをしないで


え……鮎世はなんで怒ってるの……というか、奈央クンも機嫌悪そうに……。


「ち、ちがうよ奈央クン、一緒にっていうか……」

「分かってる」

「え?」

「……つーか、元を辿れば俺が悪い」


軽く息を吐きながら、鮎世を見据える奈央。夏杏耶は言葉の意図を汲めずに、しばらくぼうっと突っ立っていた。


「もしかして、雨降って地固まっちゃった?」

「だったらなんだよ」

「否定しない……へぇ、随分素直になったね奈央。びっくりだよ」

「ほざくだけならさっさと行けよ」

「嫌だよ。俺だって夏杏耶ちゃんと行きたいし」

「あぁ?」

「凄んだって効かない……俺には通用しないっていい加減分かりなよ。奈央クン」


語尾にハートマークでもつきそうなほどに弾ませた声。響いた瞬間、夏杏耶はまだ固まっていた。


「それより夏杏耶ちゃん。ちょっと寝不足?」

「……え?」


だから、伸びてくる鮎世の手にも気付かなくて。


「煽んなら他でやれ」


力強く引き寄せられてから、夏杏耶はようやく我に返った。

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