【完】片手間にキスをしないで
付き合い始めたころからそうだったから、今更がっかりなんてしないけど……
───『一緒に登校はなし。目立つから』
同居が始まってもその約束は継続。学校中に〝恋人同士〟だと知られていても『それとこれとは別』らしい。
だから、いつもは時間差登校なんだ。少し……ほんの少しだけ、寂しいけれど。
「あっ。あんなところにカフェあったんだ……すごい、オシャレ」
でも今日は。今日だけは、2人。彼がいなければ、右隣へ頻繁に目を向けることもきっとなかった。
そこに紛れた、カフェを見つけることだって。
「ん……どれ?」
やった……!まさかのヒット!
スピードを少し緩めながら、夏杏耶は小さな箱のように佇むカフェを指差した。彼は本当に、スイーツが好きらしい。
「あれっ、奥の方に見えるでしょ? 行ってみたいなぁ……看板読めないけど」
「『Repos de Lapin』」
「……え?」
「フランス語。あの店の名前だよ」