【完】片手間にキスをしないで


付き合い始めたころからそうだったから、今更がっかりなんてしないけど……


───『一緒に登校はなし。目立つから』


同居が始まってもその約束は継続。学校中に〝恋人同士〟だと知られていても『それとこれとは別』らしい。


だから、いつもは時間差登校なんだ。少し……ほんの少しだけ、寂しいけれど。



「あっ。あんなところにカフェあったんだ……すごい、オシャレ」


でも今日は。今日だけは、2人。彼がいなければ、右隣へ頻繁に目を向けることもきっとなかった。


そこに紛れた、カフェを見つけることだって。


「ん……どれ?」


やった……!まさかのヒット!


スピードを少し緩めながら、夏杏耶は小さな箱のように佇むカフェを指差した。彼は本当に、スイーツが好きらしい。


「あれっ、奥の方に見えるでしょ? 行ってみたいなぁ……看板読めないけど」

「『Repos de Lapin(ルポ・ド・ラパン)』」

「……え?」

「フランス語。あの店の名前だよ」

< 73 / 330 >

この作品をシェア

pagetop