身ごもりましたが、結婚できません~御曹司との甘すぎる懐妊事情~
「ですよね。写真の旦那様、とても優しそうでした。それに格好よくて……あ、大企業の御曹司だって社長から聞いてます。なにからなにまでハイスペックで、羨ましいです」

「そうなの。娘にメロメロすぎてちょっと引いちゃうけど、とても優しくて家族思いの素敵なひとなの。……あ、ごめんなさい。のろけちゃった」

苑花の照れた笑い声が店内に響き、凛音も目を閉じたままクスリと笑った。

苑花の事情とやらはわからないが、同じようにシングルでの出産を控えている凛音とはまるで状況が違う。

今少し話を聞いただけでも苑花が夫から愛されているのは明らかだ。

凛音はといえば、自分以外の女性と結婚する男性との子どもを産むのだ。

たとえ愛している男性との子どもだとしてもうれしさと同じくらいの不安と切なさに押しつぶされそうになる。

妊娠を知ってから……というよりも、柊吾に初めて抱かれて以来心に秘めていた苦しみが、今になって溢れ始めたのだろう。

「あ……」

涙がこぼれ、凛音の顔を覆うタオルがじわじわ湿り気を帯びていく。

凛音は両手でタオルを押さえ、大きくしゃくりあげた。


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