身ごもりましたが、結婚できません~御曹司との甘すぎる懐妊事情~
「あ、ごめんなさい……。ただ、私はひとりで出産して、ひとりで子どもを育てていくので……旦那様に愛されている苑花さんが羨ましくて。やだ……泣いちゃってごめんなさい」

「いったいなにを言ってるんだ? 誰が凛音をひとりにするかよ。それに、旦那様にはちゃんと愛されてるだろ」

「……え?」

突然耳元に響いた聞き覚えのある声に、凛音は息を止めた。

「おまけに俺の子どもをひとりで育てるってどういうことだよ。凛音も子どもも、俺が手放すと思ってるのか?」

「あ……あの、まさか」

「よっぽど慶介さんのことが気に入ったようだけど、俺も負けてないと思うぞ。なにしろ心配で北海道から慌てて帰ってくるくらい凛音にメロメロだ」

タオルで顔を押さえる凛音の手が、よく知る温もりに包み込まれた。

「……今まで隠していたが、俺の愛情は重いからな。こうして掴んで、絶対に離さない」

「あ……まさか……うそ……柊吾さん?」

柊吾の名前を口にしたと同時に、凛音の顔を隠していたタオルがゆっくり取り払われた。 

目を開くのが怖い。

これが夢だったら――。

そんな想いに揺れていると。

「……ただいま。泣くほど不安にさせて悪かった」
 
凛音のまぶたを熱い指先が誘うように滑り、凛音はハッと目を開いた。 

すると目の前には、心配そうに凛音をまっすぐに見つめる柊吾がいた。

夢ではない。

「お……お帰りなさい」
 
凛音は飛び起き柊吾の首にぎゅっとしがみついた。






< 215 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop