身ごもりましたが、結婚できません~御曹司との甘すぎる懐妊事情~
「俺がどうなっても、俺の側にいろ。わかったな」
 
凛音を真正面から見つめる瞳には探るような揺らぎが見え、強気な声音もどこかはかない。

凛音は一見強引なその言葉の中に、柊吾の不安定な想いを感じ取った。

「柊吾さん……」

凛音は両手を伸ばし、再び柊吾にしがみついた。

故かそうしなければならない気がしたのだ。

凛音は柊吾の頭をかき抱いた。

「柊吾さんが、好き……」
 
高校生の頃からずっと、と言いたいが、それはぐっと堪えた。

その直後、柊吾の体からすっと力が抜けていった。

全身でその変化を感じた凛音は、やはり柊吾は悩んでいると感じた。

それはきっと見合いの件だろう。

「柊吾さん……離れたくない」
 
別れる覚悟をしていても、折り合いをつけられずにいる。

胸の奥に隠している本音を思わず口にし、さらに切なさが溢れ出す。

すると柊吾はふうっと大きく息を吐き出し両手を凛音の背中に回した。

ポンポンとあやすように凛音の背を何度か叩き、くすりと笑う。

「俺をその気にさせるのがうまくなったな」

「え……? その気?」
 


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