カメラを趣味にしていたら次期社長に溺愛されました
突然抱き締められて体が固まってしまう。
瞬きを何度も繰り返しているうちに耳元で吐息混じりの声が聞こえた。

「よかった。断られたらどうしようかと思った」

安堵を含んだような声の様子に嘘ではないのだと知れて、胸に温かいものが流れた。
まだ月城さんの背中に手は回せないけど応えたいという気持ちはたしかだ。

「秘書もモデルも頑張ります」

やっとのことで言うと、月城さんは私を抱き締めていた腕を解き、顔を覗き込んできた。
今までで一番の至近距離に目が泳いでしまう。

「ハハ。そんなんで恋人役、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですよ!」

と言ったものの、自信はない。

「撮影前にキスくらいしておこうか?」
「してどうにかなる問題ですか?」

眉間に皺を寄せ、真面目に聞くと月城さんは楽しげに声を出して笑った。

「月城さんはよく笑いますね」
「きみといると楽しいんだ。だから撮影中も俺はずっと笑顔でいられると思う」
「私は」

確実に笑顔は強張るだろうけど、目の前にある月城さんの笑顔を引き出せるのが自分なのだとしたら、精一杯頑張ろうと強く思った。

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