37℃のグラビティ
「あ……」


窓の外を見て、いきなり新海が声を漏らすから、その視線の先を追いかける。


「……雪?」


アタシの疑問符を合図に、二人で窓へと駆け寄った。


掃き出し窓の前、空から降る小さな白い奇跡を見つめる。


この都会(まち)に、雪が降るのは珍しい。


それもクリスマス・イヴの夜に……


アタシはいつしか窓の外を見つめるふりで、ガラス窓に並んで映る二人の姿を見ていた。


「俺、卒業したら、留学する」


いきなりそんな話をされて、フリーズしているアタシに続ける。


「それで陽織に頼みたい事あってさ……」


「……頼みたい事?」


オウム返しで小首を(かし)げる。


その新海の眼差しは、一瞬の揺らぎもなく、アタシへと向けられていた。


「俺のLINE、ブロック後、削除してほしい」


…………!!


思ってもみない頼みごとに、それでも「どうして…?」と、言葉にする事は出来なくて……


「……わかった」


アタシはポケットから、おもむろにスマホを取り出す。


それは新海のケジメの様なものだと理解して、言われた通りブロックをすると、微かに震える指で削除ボタンを押した。
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