37℃のグラビティ
だけど……


そう簡単に眠れない。


窓は全面カーテンで閉じられ、明かりも消された車内。


アタシは道路を走るタイヤの音を聞きながら、頭の片隅へと追いやっていた寛樹と梓の事を思い出していた。


『あたし見たんだ。梓と寛樹が手を繋いで歩いてるとこ……』


何度も何度も、頭の中で繰り返される留美の言葉。


突然、胸がキューっと痛くなって……


寛樹の笑顔、声、仕草が走馬灯の様に、閉じた瞼のスクリーンに映し出され、体は寛樹の温もりを思い出していた。


寛樹に会ったら、アタシは何を言うんだろう……?


言いたい事はたくさんあるのに、リアルな言葉が浮かばない。


考えれば考えるほど冴えていく頭は、眠る事など既に忘れていた。
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