身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「え、きゃあっ!」

 急に抱き上げられて悲鳴を上げた。驚きのあまり、身体が硬直する。
 パニックに陥っていると、成さんがばつが悪そうに零した。

「がっつきすぎた……でも、もう我慢できない」
「……あの……さ、先にシャワー……を」

 額にちゅっと成さんの唇が触れた。

「一緒に行こう」
「いっ……」

 あわあわしている間にも、成さんは廊下へ出た。

 この後のことを考えるだけで余裕がないのに、一緒にだなんて……!

「な、成さん……さすがに……恥ずかしい」

 懸命に震える声で伝えると、成さんはきょとんとしてから「ふ」と笑った。

「……わかってる。本当は離したくないけど」

 少しだけ残念そうに見えて、私は下を向いて呟く。

「……負担じゃないですか? その……私、なにも知らない、から……」

 いざとなって、余計なことばかり頭に浮かぶ。
 恐る恐る視線を上げたら、真正面の彼がとてもうれしそうな顔をしていて、きょとんとした。

「しっかりしているようで、こういうことは知らないんだ」

 成さんは「ふふっ」と笑い声をこぼし、色っぽい表情で囁く。

「負担なんかじゃないから心配しないで。梓の最初の相手が自分だなんて……うれしすぎて気が狂いそう」

 本当にうれしそうに口元を緩ませる彼を見て、心臓が大きな音を立てる。
 あまりに大きな音だから、まるで耳のそばで脈を打っているみたい。

 バスルームに着くと、成さんはおもむろに私を下ろした。そして長い睫毛を伏せ、私の髪を耳にかける。
 そこに口を寄せ、耳孔に妖艶な声を吹き込んだ。

「もちろん、最後の相手でもあるけどね」

 彼は私の髪をするりと梳いてまっすぐ向き合い、そっとキスされる。

「んっ……う」

 私の唇のかたちを確かめるように撫ぜ、心地よさに自然と開いた唇を優しく割って、舌を重ね合う。
 混じり合う吐息が耳に届くたびに、腰が甘く痺れて立つ足に力も入らなくなっていく。

「――はぁ」

 私は胸を上下させながら息をして、潤んだ瞳で彼を見つめる。

 不思議。
 今までこんなふうに感情が高まったことがない。成さんの前だと、自分も知らない新しい自分ばかり出てきちゃう。

 私の視線を受けた成さんは、もう一度、静かに唇を重ねた。

「ずっと我慢してたから、今夜は手放せないかも」

 成さんはそう囁いた言葉通り、その夜は片時も私を離してくれなかった。
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