身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「この件は数年前から、兄さんと鷹藤会長が交わしていた約束らしくてな。鷹藤会長のお孫さんが本店に戻るときに、と。約束した相手が会長だし、いづみとの共同開発が今になってなくなったら大損害なのは必至なんだよ……」
「いや……わからなくはないけど」
「頼む。時雨の顔を立てると思って」
伯父は時雨の経営指揮を執る位置にいるせいか、少々強引な印象がある。
父は伯父にはそうそう逆らえないのはわかっている。
友恵ちゃんも伯父が怖くて断るに断れず、直前になって我慢できずに家を出て行っちゃったのかも……。
私は父の哀願の眼差しを受け、深く息を吐いた。
「はあ~。もう。わかったよ……。でも結婚はしないからね! かたちだけお見合いすれば、それでいいんでしょ?」
私も時雨グループの社員だし、会社に多大な影響が出るかもと聞いてしまったら動かざるを得ない。
すると、父はぱあっと明るい表情になって、私の手を握る。
「ありがとう、梓……!」
「貸しだからね! それも大きめの!」
恩着せがましく強めに言ったら、父は「うん、うん」と何度も首を縦に振った。そして、ようやく私から手を離した後、安堵しきった顔で零す。
「いづみ銀行の次期頭取になる相手だ。相性がよかったら、そのまま話を進めても親としては申し分な……い」
そのとき、私はあえて音を立てて席を立った。父へ鋭い視線を渡し、低い声で返す。
「あわよくば……なんて考えないでよね」
「……はい」
しゅんと小さくなった父を置いて、リビングを出る。
階段に足をかけた直後、玄関のドアが開く音がして振り返った。
「いや……わからなくはないけど」
「頼む。時雨の顔を立てると思って」
伯父は時雨の経営指揮を執る位置にいるせいか、少々強引な印象がある。
父は伯父にはそうそう逆らえないのはわかっている。
友恵ちゃんも伯父が怖くて断るに断れず、直前になって我慢できずに家を出て行っちゃったのかも……。
私は父の哀願の眼差しを受け、深く息を吐いた。
「はあ~。もう。わかったよ……。でも結婚はしないからね! かたちだけお見合いすれば、それでいいんでしょ?」
私も時雨グループの社員だし、会社に多大な影響が出るかもと聞いてしまったら動かざるを得ない。
すると、父はぱあっと明るい表情になって、私の手を握る。
「ありがとう、梓……!」
「貸しだからね! それも大きめの!」
恩着せがましく強めに言ったら、父は「うん、うん」と何度も首を縦に振った。そして、ようやく私から手を離した後、安堵しきった顔で零す。
「いづみ銀行の次期頭取になる相手だ。相性がよかったら、そのまま話を進めても親としては申し分な……い」
そのとき、私はあえて音を立てて席を立った。父へ鋭い視線を渡し、低い声で返す。
「あわよくば……なんて考えないでよね」
「……はい」
しゅんと小さくなった父を置いて、リビングを出る。
階段に足をかけた直後、玄関のドアが開く音がして振り返った。