身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「お母さん! どこ行ってたの!?」

 母の姿を見るなり、くるりと方向転換して詰め寄る。

「ちょっと隣の晴田(はるた)さんのとこにお裾分けをね。その剣幕だとお父さん、とうとう話したみたいねえ」

 母はまったく動じずに、普段通り穏やかな口調でそう言った。

「お母さんどう思う!? だって、そもそも友恵ちゃんの予定だったはずでしょ? その代わりが私って……タイプ違いすぎるし!」

 従姉妹の友恵ちゃん。彼女は私のふたつ年下の二十四歳。

 彼女は伯父が可愛がるあまり、やや過保護気味に育てられ、箱入り娘という言葉がぴったりな女の子。
 小柄で目が合えばにこっと微笑んで、いつも他人を優先させるような性格だ。

 お互いの家もそこまで遠くはないから、ときたま会って遊んでいたりもした。

 雰囲気が違うのに気が合う私たちを、周りは意外そうにしていた。でも、私たち当人は、本当に無理などしておらず、自然と仲良くできていたのだ。

 お互い社会に出てからは、頻繁に会うこともなくなってしまったけれど。

 言いたいこと言って喜怒哀楽が激しい私とは正反対。月とスッポン。
 私が男なら、私より友恵ちゃんを選ぶ。

 伯父も、結婚相手が取引相手の鷹藤なら、大事な娘を目や耳の届く範囲に置けて安心できると思ったのもあるかもしれない。

「まあねえ。でも友恵ちゃんは、ほら……今も音信不通らしいから」

 母は右手を頬に添えて、悩まし気な息を漏らした。

 そう。そんな彼女がひとりで黙って家を出たとなれば大事件。

 友恵ちゃん直筆の置き手紙には【探さないでください。私は自分で道を選びます】とありがちな文句が綴られていたと聞いた。

 さすがの私も話を知って驚愕し、久しぶりに連絡を連絡を試みた。

 しかし、電話は繋がらないし、メッセージも既読にならず。なんの手がかりもつかめぬまま、今に至る。
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