8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「いや、一番目は妻と踊る」

 オスニエルの手がギュッとフィオナの手をギュッと握る。フィオナはドキドキしてしまった。
 ジェマは不満そうだったが、じろりとフィオナを睨んだ後、「では、二番目のダンスでお願いいたしますわ」と殊勝に引き下がった。
 フィオナは意外な気がしたが、オスニエルはうむ、と頷くとフィオナの方をうかがった。

「踊っても構わないだろうか」

(……意見を聞かれてる?)

 こっちの方が意外だった。オスニエルが、他人の顔色をうかがうなんて。

「も、もちろんですわ。ジェマ様のダンスの腕前は素晴らしいと伺っております。楽しみにしていますわ」

 側妃として了見の狭さを見せつけるわけにはいかない。フィオナは愛想笑いで答えた。

「まあ、うれしいこと。約束いたしましたわよ、オスニエル様」

 ジェマはほほ笑んで去っていく。

「……なんか、ジェマ様にしては毒がないですね」

 ぼそりとつぶやいたのは本音だ。オスニエルも静かに頷く。

「彼女もようやく理解してくれたのだろう。以前は自分こそが正妃候補だとわがままを言ってきたが、俺がフィオナを正妃にするつもりだと伝えたからな」

「そうなのですか」

 それを、素直に受け入れるような彼女だろうか。
 疑問には思ったが、オスニエルが納得しているようだったので、気にしないことにした。
広間までの間に、たくさんの警備兵が配置されていた。そのうちのひとりにトラヴィスの姿を見つけ、フィオナはハッとする。
 しかし、オスニエルに不審に思われるのも困るので、視線は合わせずに通り過ぎる。

(トラヴィスはまだ諦めていないのかしら。私は帰らないわよ?)

 兄のように頼りになる彼だが、難点は自分の主張を通しすぎるところだ。フィオナの気持ちをないがしろにしすぎる。彼にとっての正しい道がフィオナにとっても正しいかどうかなど分からないのに。

「父上、おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「うむ」

 ふたり揃って国王陛下に挨拶し、その後、招待客に挨拶をする。やがてワルツが鳴りだし、自然に人々は、会場の端に集まる。そして中央で踊る人たちを囲むように人の輪ができた。
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