8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 ランドンは当初、首を横に振った。そんなことをしなくても、フィオナ姫を娶ればいいのだ。オズボーン王国は一夫多妻が認められている。彼女は側妃でしかないのだし、嫌ならば後宮に放置しておけばいい。実際、現陛下だって、側妃は五人いるが、全く通っていない妃もいるはずだ。

 だが、オスニエルは強硬に襲撃を指示した。彼は女嫌いの気があり、できるだけ妻を娶りたくないと思っている。そのせいで二十六歳の今も独身なわけだが、最初に迎える妃がブライト王国出身のフィオナというのが気に入らないようだ。

(……変に融通の利かない方だな。全く面倒な)

 結局ランドンは彼の要望を受け入れ、国境に程近い襲撃ポイントを割り出し、部下に実行させた。極秘任務であるし、オスニエルからフィオナ妃の生死は問わないと言われたので、かなりの手練れを用意した。彼らを送り出してから一時間も経っていない。今ようやく報告兵が帰って来たばかりだというのに、馬車の転倒事故を起こさせたはずのフィオナ姫が、無傷で国境までやってくるなんて。

 王都への道程はまだ長い。ランドンは休憩のたびにフィオナへ話しかけた。

「フィオナ姫、襲撃を受けた後に、貴殿に起こったことをお聞きしてもよろしいでしょうか」

「あら、あなた方のほうが知っているのではなくて」

 フィオナは怯えもせずに言ってのける。ランドンは唇を噛みしめて黙った。しかし、ここで認めるわけにはいかないのだ。

「はて、何のことでしょうか」

「……まあいいわ。私は事を荒立てるつもりはないの。山賊に襲われて、馬車が山道を滑り落ちてしまったのよ。遭難しかけたけれど、大きな狼が運んでくれたの」

 嘘は言っていない。だがランドンは酷くいぶかし気な視線を向けてくる。

「狼……ですか? 野生の狼がそんなことするでしょうか」

「信じなくてもいいけど、したのよ。……あなたたちにはわからないかもしれないけれど、ブライト王国の人間は自然と共に生きているの。山に生きるものたちが私に好意的なのは普通のことよ」

「はあ」

 ランドンは釈然としないまま、彼女の話をきいた。

「ではその狼はどこに?」

「私を連れてきた後、山に帰ったんじゃないかしら」

「左様ですか」

 話を聞いていても、ランドンには少しも納得できなかった。
< 29 / 158 >

この作品をシェア

pagetop