花の咲く頃、散る頃に。
彼女と出会ったのは、春だった。
その日、寝坊して遅刻確定だったオレは、開きなおってのんびり校門をくぐった。
校舎まで行く途中、桜並木を通りかかったとたん、風が強く吹いて、ふと、足を止めた。
そして、桜が役目を果たしたと言わんばかりに空を乱舞していた風景の中、
『あー、今年ももう散っちゃっうんだね』
ふいにに声をかけられて、振り向いたそこに、
彼女がいたんだ。
ショートカットの髪が風になびくのを面倒そうに手で押さえ、そのすき間からはピンクベージュの口紅が見えて、ひどく ”大人” を感じた。
かと思いきや、身にまとっているパンツスーツはまだ新しそうで、あきらかに新任の教師だと分かった。
『ところで、きみ、こんな時間にここにいていいの?もうチャイム鳴ったよ?』
説教節ではなく、からかうように、どこかイタズラっぽく訊いてくる彼女は、少女のまま大人になったような、そんな印象だった。
その印象が、慣れたように施されたメイクとギャップがあるように感じて、
いとも簡単に、オレは彼女に恋をした。
それが、オレの長い片想いのはじまりだった――――――