FUZZY





ふいに名前を呼ばれる。

碧生くんの手はテーブルの下、シャツの裾。くいっと引っ張られて耳元にあたたかい息がかかった。


「碧生く、」

「今日の理乃さんもかわいい」


なんだか一瞬だけ時が止まったみたいに、その言葉が鼓膜に滞在する。

おそらく二人だけにしか聞こえないであろう声の大きさ。周りはわいわい騒いでいるから私たちのやりとりに気づいていない。

突然のことでうまく返せず、黙っていたら「あんまり飲み過ぎないようにね」と、それだけ言い残してその場から去って行った。



ほんの一瞬、されど一瞬。

それだけで心を鷲掴みされた気分だ。

あんな不意打ちの〝かわいい〟にときめかない女いる?もしいるなら鋼の心だなって物申したいぐらい。



「お前、まじ大丈夫?顔赤いぞ。酒、やめとくか?」


戻ってきた弘実に顔を覗き込まれて自分の顔の赤さと熱さに気づく。……照れすぎだよ、私。


「……お酒、ほどほどにする」


ちゃんと言いつけを守るなんて私らしくない。


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