竜王様のプレゼント
 フォーンさんから逃げ……ではなく、竜王様のおやつの時間は守らなきゃ。クールに見えて、おやつの時間を楽しみにしておられるので。
 コンコンコン。いつもと同じノック。
「入れ」
 いつもと同じ返事。
「失礼いたします」
 そっとワゴンを押すマゼンタと共に竜王様の執務室に入るのまでは、いつもと同じでした。が、しかし、今日の執務室はいつもと違っていました。

 あれ。鏡?

 大きな姿見が、竜王様の執務室に出現していました。
 昨日までこんなものなかったよね? 急になぜ? しかも結構な存在感なのに、マゼンタは一向に気にすることなくテキパキとお茶の準備を進めてるのも謎。
 姿見が気になってそっちばっかり見ていたら、いつの間にか竜王様がお茶のテーブルについてました。
「今日の菓子はなんだ?」
「あっ……ええと、お手製ジャムを練り込んだパウンドケーキです」
 おっといつの間に……じゃなくて。お菓子のことを聞かれてるのよね。ぼーっとしてたら返事が遅れちゃいました。
「今日も美味そうだ」
「ありがとうございます」
 いつものことながら優雅にお菓子を食べる竜王様。私ね、実は気付いちゃってるんですよ。お菓子食べる時、ちょっとだけ表情が緩むの。たま〜に見せる優しい顔といい、このちょっとした表情の変化といい、これは私だけの秘密です。そんな観察してるのバレたら怒られそうだしね。
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