My dear prince~初恋の幼馴染or憧れのアイドル~
次の日の朝。

渚は女子の控え室に使っている教室にやって来た。


「おはようございまーす。
今日もよろしくお願いします」


昨日の出来事は忘れて、切り替えようと明るく挨拶をした。

しかし、教室を空気が重い。

渚を見てヒソヒソと話をしている女子の姿も見える。


「なに………?」


小さく呟いた渚に対して、舞が椅子からダンっと勢いよく立ち上がり、腕を組んだまま歩み寄って来る。


「ねぇ。紫音とキスシーンがあったんだって?」


「はい。そういう役柄なので……」


「役なんだったら、なんで紫音の恋人面して、近付いてんの?」


「別に恋人でもなんでもないです……」


渚は舞が怖くて、どんどん俯いていく。


「みんな紫音を独り占めしようとしてる、アンタが気に入らないんだってさ?」


「独り占めしようなんて……」


渚はいつからか、勘違いしていたことに気付いた。


紫音が恋人になるなんて、夢のような話。

頭の中では、わかっていたつもり。

でも距離が近付くにつれて、好きな気持ちになっていた。

それが独り占めだと思われても仕方がない。

アイドル同士のスキャンダルが出たとき、芸能活動ができないほど、相手が追い詰められるなんて、何度もネットで見てきた。

紫音に優しくされて浮かれていた渚は、それが自分の立場になったのだと、思い知らされて、その場で頭を下げた。


「ごめんなさい……」


すると舞に肩を強く押された渚は、よろけてしまう。


「バカにしてんの?
そんなの誰に何を謝ってるのかわかんない。
そうねぇ。
紫音を独り占めしようと思って、すいませんでした。って言うのはどう?」


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