若女将の見初められ婚
*◇*◇*
しの君と会う日が決まった。
一週間後の日曜日だ。
大袈裟にするのは嫌なので、二人でお昼ご飯でも食べましょうというお誘いがきた。
よかった…
改まった席だったら、緊張してうまく話せる自信がない。
「服装って着物の方がいいかな?」
「無理せんでもいいよ。洋服で行けば?」
母の提案に、しばし考える。
「いや。やっぱり着物で行く。お父さんの髪飾り見てほしいし」
気持ち的には、「たちばな」を代表して行くつもりなのだ。ここは、父の髪飾りをアピールすべきだろう。見合いというよりは商談に近いのだから。
幸い、こんな家業に生まれた私は、着物を着る機会が多く慣れている。着付けはうまくできないが、母が着せてくれる。
「おばあちゃんの訪問着を着ていくわ」
おばあちゃんの訪問着とは、母方の祖母から受け継いだ着物のことだ。
祖母は着道楽の人で、「いわくら」からもたくさん着物を買っていたらしい。
四年前に亡くなった時に、母と伯母が形見分けで引き継いだ。
その中には、私が着れるような柄の着物もある。呉服屋の若旦那に会うのだから、なるべく上等の着物で行きたかった。
祖母の力を借りて頑張りたいという想いもある。
レストランを指定されたので、テーブル席だろう。さすがに和室で正座だとキツいが、椅子なら大丈夫。
私は一週間後の食事会に向けて、淡々と準備を整えていった。