若女将の見初められ婚

その後は、「たちばな」の現状を話してくれた。

知らなかったが、例の若い女優さんは、父の髪飾りを気に入ってくれて、何度か注文をしてくれたらしい。

しかも、今度、初めての時代劇をすることになって、装飾品を父にお願いしたいと言ってきたそうだ。

「東京の打ち合わせにな、二人で行ってきたんよ。お父さん一人やったら、何も話されへんのちゃうかと心配やったから」

母が内緒話でもするように、こそこそと話す。

「そしたら、事務所に着いたとたんスタスタと打ち合わせ場所に行くから、まずびっくりして。前に仁君と行ったことがあったから、勝手がわかったらしいけど」

「女優さんに会ったら『かんちゃん久しぶりー!』って言われてて、ひっくり返りそうになったわ」

父の名前は寛太郎(かんたろう)だが、あぁそういえばそんな名前だったなという感じしかない。

実の娘ですらそんな扱いの名前を若い女優さんに呼ばれてるとは。
しかも「ちゃん」付けで!

「打ち合わせもな、テキパキとするねん。ようしゃべってな。何か夢見てるんちゃうかと思って頬っぺたつねったわ」

ほら見てと、見せられた女優さんのSNSのページには、

『かんちゃんの髪飾りを着けて、初めての時代劇がんばりまーす』

と書かれていて、父と腕を組んでピースをする女優さんの写真があった。父は薄笑みを浮かべている。

薄笑み!!なんとレアな。
私と一緒に写る写真は、全て大仏顔なのに。

父は60歳にして新たなワールドに突入したらしい。

これを見た若いお客様が、『かんちゃんいますか?』と言ってくるので大笑いやと、母は本当におかしそうに笑った。

お店の売り上げも、私がいた頃とは比べ物にならないくらい増えたそうだ。

「もうすぐ仁君にも全部お金を返せそうや。お父さんが気にしてたから。嫁ぎ先に実の親が借金してるなんて、志乃が肩身の狭い思いをするって」

「とにかく、うちらは大丈夫やからあんたも頑張り」

そう言われて送り出された。

ホッとしながら、店を後にする。

来てよかった。女将さんに感謝感謝だ。

来たときよりずっと足が軽くなった気がした。

< 82 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop