若女将の見初められ婚
「それで?何があったん?」
父が店に戻った途端、母が突然問いかけてきた。
「女将さんから連絡がきたから。
仁と何かあったみたいなので、ゆっくり話を聞いてやってくださいって。うちらはメッセージアプリで繋がってるねんで」と笑う。
女将さんには本当にかなわない。
私のことをよく見ていてくださる。いいお義母さんだなぁとしみじみ感謝した。
だが、何と言おうか迷う。
理沙さんとのアレコレを話すわけにもいかないし…
「夫婦って難しいなと思ってる」
しばらく考えて、そう答えた。
「当たり前や。他人同士が突然一緒に暮らすんやで。難しいに決まってる」
カラカラと母は笑いとばした。
「始めは、こんな人やったっけと思うことばっかりや。そこからスタートして、どちらも、少しずつ我慢して『すり合わせ』していく。
あ、ここがしっくりきたなって所に行きつくと、もう我慢は我慢じゃなくなる。あんたらは、まだ何の『すり合わせ』もしてないやろ」
母の言葉がすっと心に染みていく。
「お父さんなんて、なーんにも話さへんし、無表情で嬉しいんか悲しいんかもわからへん。
結婚した当初どんなに苦労したか。
でも、今は、大仏のように黙って座ってても何考えてるかわかる。そんなもんや」
ハハハと明るく笑った。
母が話してくれたことが、ストンと胸に落ちた。
「すり合わせ」かぁ。確かに、私たちはまだ何もできてない。
結婚してから一年。揉め事は今回が初めてと言ってもいいくらい。
お互いがまだ無理をしてる段階だろう。
実際、私は理沙さんのことも、しの君がどういうつもりで結婚したのかも、聞きたくても聞けていない。
まだお互い遠慮がある。
その隙間を埋めていかなければ…
「お母さん、さすがやな!だてに年取ってない」
感心して誉めたつもりで言ったのに、頭をスコーンと叩かれた。