ひと雫ふた葉  ーprimroseー




 そう思ったのに、父さんの刺すような視線が徳兄へと注がれる。




「日澄宗寺院からありったけの除霊師(じょれいし)を呼べ」

「え……? な、なんで」

「その霊魂を消す」




 そう言い放った父にはもう、徳兄ですら言い返すことができないようだった。

 俺も同じ。〝消せ〟と言う言葉が脳裏に蔓延(はびこ)る。

 そうだ。普通、誰とも知らない霊魂であれば消してしまえばいいと思うだろう。例えそれがまだ、かろうじて生きていたとしても……その命綱を断ち切るのはたやすい。

 次第に父さん達の顔を見れなくなって、視線は手元に引き戻されていく。

 また、俺はここで引き下がるのか。いつも結局爺や父さんには逆らえない。でも……でももうそんなの嫌だ。

 雨香麗を殺してまでこの事件を解決したいとはどうしても思えず、むしろ雨香麗を消してしまうくらいなら、この世がどうなってしまってもいいとさえ考えてしまう。

 諦め……きれない。




『そうだ。汝は諦めない。まだ強く前を向けるはずだろう』




 その声にはっとして拳を握り締める。




『朱紗……』

『どうした。主張しないのか。あの小娘を救ってみせると』

『……うん。そうだよね。俺は最初から諦めてない。本当は諦めるつもりなんて────』



 微塵もない。




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