ひと雫ふた葉  ーprimroseー




「すまんすまん。人の世は過ぎ去るのが早くてな。……この話し方ではどうだ? 伝わるか?」

「う、うん」

「そうか、それはよかった。我がは主の友となりたい。意思の疎通ができなくては、本末転倒とやらだからな」




 急に話し方を変えたせいで、ところどころおかしなことを言い出す朱紗に思わず笑ってしまう。

 こいつ、本当はこんな性格だったのか。

 5歳の時から一緒にいるけど、ここまで話せたことなんてなかったし、なんだか不思議な気持ちになる。そんな俺の気持ちなど露知らず、といった様子で朱紗は話し続けた。




「神には実体などないものだ。その姿形は想像力豊かな人間が生み出しているに他ならない。つまり、だ。柴樹、主は我がをどう見たい?」




 どう……? って言われても……。

 なんだか朱紗は思っていたよりも子供っぽいような気がした。純粋無垢で誰でも友達、誰とでも遊びたい。
 そんな朱紗を想像した時、朱紗がその場で宙を舞った。朱紗を優しい光が包み込んだかと思えば、俺が想像していた姿となって無邪気に笑いながら駆け寄る。




「どうだ? 理解できたか?」




 俺の胸元までしかない小さな朱紗は跳ねるように周りを走り回った。

 さっきまでの長い髪は短髪に変わり、それでも白銀に輝く。朱く大きめの羽織の袖に隠れる手、短パンからのぞく細い足、背に生える小さな翼。

 どれを取っても神などという高貴な存在にはとても思えず、そこにはただただ、かわいさが渋滞していた。




< 68 / 109 >

この作品をシェア

pagetop