ひと雫ふた葉  ーprimroseー

2es.七つ下がりの雨、記憶の壁





 無機質なコンクリートに大きく掲げられた〝金藤(きんどう)総合病院〟の文字。




「ここが、わたしの体がある場所?」

「うん。……大丈夫?」

「……っ平気!」



 少し無理をしているように見えたけど、今は彼女の気持ちを優先してあげたくて俺は押し黙った。

 他の客に混じり中へ入る。受付に備え付けられてた時計を見れば、その針はもうすぐ17時をまわろうとしていた。

────もうそろそろかな。

 そう思って周りを見渡した時、入口に2人の姿を見つけた。




「紅苑さんへ面会ですね。ご家族以外の面会は15分程度となっておりますので……」




 そんな会話を盗み聞いたあと、そっと徳兄達のあとを追う。いくつものドアの前を通り過ぎ、辿り着いた雨香麗の眠る部屋。




「やぁ」




 そしてそこには本を片手に優雅にコーヒーを飲む雨香麗の兄、麗司さんがいた。

 3人は約束していたような会話を交わし、それぞれ麗司さんに促されてパイプ椅子へ腰かける。そんな3人を横目に俺達はそっとベッドへと近づく。しかし俺はそこに横たわる雨香麗を見て言葉を失った。




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