せんせい、教えて。
放課後、一人きり取り残された教室


休み時間はいつもクラスの人達が騒いでうるさいのに、この時間はやけに静かでなんだか落ち着かない


鞄からスマホとイヤホンを取り出して、イヤホンを耳に填めてスマホをいじる


イヤホンから流れてきたのは、お気に入りのクラシックだ


リラクゼーション系の曲で、勉強する時はいつもこれを聴いている


「なーに、聴いてんの?」


「・・・せんせい、イヤホン引っ張らないでください」


片方のイヤホンを取り上げると、せんせいはそれを耳に填める


「へぇ、瀬戸口ってこういうの聴くんだ」


距離の近さに鼓動が高鳴るのを感じる


「勉強用で使ってるんです。わかったら返してください」


それに気づかれたくなくてそう冷たく言いながら手を差し出すと、はいはい、とイヤホンが置かれる


「態度は悪いくせに成績は良いから困るよなー」


「それほどでもないです」


「褒めてねぇよ」


せんせいだって口は悪いくせに


それも、顔が良いから逆に生徒、主に女子に好かれるのはなんなんだろう


俺様っぽくてカッコいい、だなんて騒いでる女子の気が知れない


「・・・で、今日はなんで居残りさせたんですか?」


提出物は・・・多分ちゃんと出してると思う


「何かの罰とかじゃないよ。あまり人がいるとこだと話しにくいからさー」


改まったように私の前の席に座るせんせい


急に目の前に来られて、ついせんせいから目を逸らしそうになる


「どう? ちょっとは退屈しなくなった?」


鼓動が飛び跳ねて、だんだん早くなっていくのを感じる


「な、なんのことですか・・・っ」


「だーかーら、昨日俺にあんなことされて、少しは退屈が埋まった? ・・・授業サボって、担任の先生とキスして」


「別に、そんなこと・・・っ」


なんでせんせいは、そんな余裕でいられるの?


あの時の私は、突然のことに驚いて、キスしたことにドキドキして


声すら出なかった私に反して、むしろせんせいはそんな私を見て笑っていた


からかいのつもり?


それとも、本当に私の退屈しのぎになろうとしたの?


せんせいにとって、好きでもない人とキスするのはそれくらい軽いものなの?


聞きたいことがたくさんあるのに、言葉が喉につっかえて何も言えない


心臓がうるさくて、静寂に包まれたここじゃせんせいにも聞こえるんじゃないか、って思うくらいだ


「ほんとかー? 今日なんか、あからさまに俺と目合わせないようにしてたけど?」


いきなりキスされたら、いつものように接せるわけがない


せんせいと同じ空間にいると落ち着かなくて、話すのはもちろん、目を合わせることだってできない


「・・・せ、せんせいのっ・・・気のせい、です・・・」


図星をつかれても、尚も肯定しなかった


自分だけ、こんなにせんせいのこと意識してるって認めたくなかったから


いつの間にか強く握りしめていた私の手の上に、一回り大きな手が重なる


綺麗な肌で、長くて繊細な指


「ふーん。じゃあ・・・もう一回する?」


「え、だ、だめっ・・・そんなの」


抵抗しなくちゃいけないのに


「そう言われてもなー。・・・強がって否定してるけど、実は期待してるでしょ。呼び出された時から」


この手を振りほどかなきゃいけないのに


「そんなこと、ない・・・っ」


私はそんな、粗野な人間じゃない・・・そんなはずない


「勉強ばっかしていっつも真面目なフリしてるけど、本当はこういう、スリルとか背徳感が欲しかったんじゃない?」


「ち、ちがっ・・・」


「俺は、今までのつまんなさそうな硬い顔してる瑞希より、こっちの方が好きだけどなぁ」


「名前で・・・呼ばないで・・・っ」


せんせいの手が私の唇に伸びて、親指でそっとなぞられる


抵抗しなくちゃ、いけないのに・・・


体が固まったように動かなくて、抵抗できない


・・・ううん


抵抗できないんじゃなくて、する気がないんだ
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