せんせい、教えて。
屋上のドアが重く開く音がして、反射的に振り向く


案の定、そこには"彼"が立っていた


「お前ほんと懲りないよなぁ」


私のクラスの担任、三宅玲央先生だ


隣に並んでフェンスに寄りかかる彼に、せんせいこそ、とボソッとつぶやく


「ん?」


余裕な笑みでそう訊いてくるのが心底腹立つが、できるだけ苛立ちを抑えて答えた


「せんせいこそ、なんで私に説教したりしないんですか」


授業をサボるのは今回で五回目


始めてサボった時も何も言わなかったし、そのことを私の母親に告げた様子もなかった


「んー、瀬戸口に興味があるから?」


「・・・なんで疑問形」


思わず本音が溢れる


「瀬戸口って、いっつも一人でいるし、クラスの奴と一緒にいようとしないじゃん?」


「まぁ・・・そうですけど」


「その上常に仏頂面で、周りのことなんか無関心ってオーラ出してるし」


「・・・喧嘩打ってるんですか」


全部本当のことだけど、人に言われるとなんだかイラッとくる


私がそう眉をつり上げると、「違う違う」と笑って続けた


「だから興味が沸いたんだよ。そういう冷めた人の表情がどうしたら崩れるのか、崩れる瞬間が見たくなる」


興味が沸いたって・・・それが理由?


ますます意味がわからない、と首をかしげる私に、瀬戸口はさぁ、と口を開く


「なんでそんなつまんなそうな顔してんの?」


「・・・そんなの、退屈だからです」


「冷めてんねー」


一言余計だ


私には好きなものもないし、趣味と言えるものもない


毎日同じことの繰り返しでつまらない


「本は好きだったりしないの? 昼休みとかいつも図書室行ってるみたいだけど」


「あれは暇つぶしみたいなもので、特別好きじゃ・・・」


人付き合いが苦手な私には気軽に話せるほど親しい人はいないから、本を読むくらいしかすることがなかった


「瀬戸口が欲しいものってさぁ・・・」


ーーーー背徳感


「俺がその退屈しのぎになってやるよ」


「? どういうことーーーーー」


そう訊こうとすると、次の瞬間私の唇は塞がれた


一瞬のことだった


せんせいとの距離が縮まったと同時に、唇に柔らかい何かが触れた感触がした


その感触はすぐに消え、一瞬のことだったけど私は理解した


心臓が騒ぎ出し、頭の中が真っ白になる


「あれ、思った以上に効果抜群? もしかしてウブ?」


喉に言葉がつっかえて、上手く呼吸できない


「これで、退屈な毎日も終わったでしょ?」


動揺のあまり言葉を失った私を見て、せんせいは愉しそうに笑う


すると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた


「あ、授業あるから、急がねぇと。瀬戸口もその顔の熱さっさと冷まして、次サボんなよー」


せんせいは何事もなかったかのように呑気な声で言い、この場を去った


何も言えず、立ち尽くす私を残して


そっと頬に手を伸ばすと、確かに顔は熱を帯びていた


唇には、まださっきの感触が残っている



私は、せんせいとキスしてしまったんだ
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