わがままイレブン!

6 きれいなマネージャーが好きですか

「ねえ。さっきからサッカー部の人が、美咲を呼んでいるよ」

休み時間。

親友の瞳に肩を叩かれて顔を上げた美咲は、教室の入り口で手を振っているサッカー部の二年の優作を晴彦を見つけた。そんな二人に彼女は歩み寄った。


「二人供、どうしたの?またお弁当忘れたの?」

「今日は違うよ?実はな。相談したい事があってさ。練習終わった後、お前の家に行っても良いか?」

困った顔の優作は美咲に手を合わせていた。

「ええと。兄貴は遅くなるかもしれないよ」

すると彼は、ポケットからスマホを取り出した。

「僕らが相談したいのは美咲なんだ。あのさ、今のうちに連絡先を教えてくれよ」

晴彦に教えた美咲を見て、優作はほっと溜息を付いた。

「助かったよ、じゃあ、俺達。練習終わったら行くから」

「はい。久しぶりにご飯作って待っているから!」


その昼休み。

農園の美咲はいつもの花壇の水やりに向かった。

そこに、体操着姿の透が駆けてきた。

「あ?いた美咲!あのな。連絡がいっているかもしれないが、二年の」

「優作と晴彦ですか?今夜相談にのる約束をしました」

「そうか。済まないが力を貸してやってくれ、あ?だめだ。美咲、俺を隠せ!」

すると透はあわてて花壇の茂みに隠れた。するとそこに三年生の女子が三人やってきた。

「すみません!今ここに男子生徒が来ませんでしたか?」

「いいえ」

「そう?じゃあみんな。向こうを探そう!絶対逃がさないんだから」

おう!と掛け声をかけた女子は獲物を狙うハンターのように、辺りを警戒しながら校舎の方へ行った。

「……行きましたよ。一体何なんですか?」

頭に葉っぱをつけた透は、そっと立ち上がった。

「今度、文化祭があるだろう。その時に体育会系の部も手伝いがあるんだが、俺達サッカー部は演劇部の手伝いをするんだ。女子しかない部だから、今は舞台のセットを作る力仕事をしていたんだ。でも話しの最中にコンテストに出場する話になったから逃げて来たんだ」

「もしかして。ミスター藤袴コンテストですか?」

透は眉間に皺を寄せて頷いた。

「昨年はクリス先輩がでて優勝したから……今回もサッカーから誰か出せとしつこいんだ」

「ロミオは?あの甘いマスクはこういう時に使わないと」

「……あいつは中等部の時に優勝して殿堂入りだから、ダメと言われた」

そういって透は、体に付いた葉を手で払った。

「そうか……でも参加すればいいだけですよね?じゃあ陽司さんにしましょうよ」

「勝手に決めていいのか?」

「いいんですよ。今だって透さんの手伝いもしないで屋上で昼寝しているんですから。少しは働かせないと、ええと。ネットでエントリーか。私、写真を持っていますので……よっと。はい。オッケーです!」

美咲は勝手に高校のホームページにアクセスして応募してしまった。これを透は自分のスマホで確認した。

「……陽司の事を『フィールドの野生児』って。いいのか?こんなキャッチコピーを付けて」

戸惑う透の肩をまあまあと叩いた美咲は、心配するなと言いその他の相談乗り、昼休みを終えた。


そして夜七時。

真田家に優作と晴彦がやってきた。

「突然ごめんな。翼はまだ帰って来ないのか?」

「もうすぐ帰るって一時間前に連絡が来たけど。それより。さ、食べながら話そう!」

「おおおお。久しぶりに見ると迫力だな……うわ懐かしい?国旗がちゃんと立ってる!」


晴彦はビッグハンバーグを目の前に、ごくんと唾を飲んだ。

「もちろんだよ。でもこのままだとお皿に乗らないから、私が少し切るね」

入れたナイフからじゅわわと中から肉汁が溢れて来たのを見た優作は、フォークを手に取った。

「アルゼンチンの国旗は優作。晴彦はブラジルで良かったよね?」

「おう。さすがだぜ」

「嬉しい……憶えていてくれたんだね」

「当たり前よ。ではどうぞ?」

そしていただきます!の声が部屋に響いた。そんな二人は食べながら説明を始めた。

「実はさ。今度の日曜日にこの中央地区の高校のサッカー部二年生だけでやる『中央サッカー二年生会』っていう親睦が目的のバーベキューのイベントがあるんだ。それでさ……美咲に料理を手伝って欲しいんだよ」

「部活の女子マネさんは?」

晴彦は首を横に振った。

「その日は女子大のオープンキャンパスに行くから無理って言われてさ。それにみんな三年生だしさ」

「でも。私は一年で、部外者だよ?」

するとライスにハンバーグを載せながら優作がつぶやいた。

「……このイベントは、翼が始めた事みたいだせ。だから百田監督が妹の美咲に協力してもらえって言われたぞ、俺達」

「また兄貴か……」

「しかもさ、去年は和希さんと陽司さんが参加してさ。二人で滅茶苦茶食べて、他校に迷惑かけたみたいなんだよ」

「ええ?なんであの二人を行かせたの?恥をさらすだけなのに」

「ああ。これって犬でもわかる常識だぜ」

「いや、うちの金魚でも分かるレベルだよ?だから今年は料理をたくさん提供して、藤袴の名誉を挽回してくれってクリス先輩からの伝言なんだ。美咲、ライスのお代わりある?」

「……はい晴彦、どうぞ。優作は?」

「俺も!あとこのわかめスープもあったらくれ!」

「まだあるから慌てないで。はい、これ。熱いから気を付けて?しっかし、クリスからのお願いか……」

兄の一歳下の彼も、かなり苦労をしたようで美咲は心苦しくなってきた。

「それにさ。他の二年生部員は怪我をしているし他は塾通いしているから。動けるのは僕と晴彦くらいなんだ。どうかな美咲?」

「俺達も買い物や当日の料理をするぜ?それに美咲が中等部のマネージャーしていた時、一緒に料理したこと有ったよな。あれ結構、楽しかったぞ、俺は」

「……懐かしいね。夏合宿の時に焼きそば作ったよね」


すると晴彦が窓の外の星空をそっと眺めた。

「ああ。焼いても焼いても『足りない!』って言われてさ」

すると優作はテーブルに肘をついて、そっと目を瞑った。

「……そうだな。スーパーで材料を買っても買っても。『足りない!』って言われたな。待たせている間にまた先輩達の腹が減る『空腹のループ』に陥ったよな」

「そう。あれは確か奴らが眠くなるまで、続いたっけ……」

美咲まで目をつぶり、当時の星空を思い出していた。

……でもあの時。みんな、美味しい美味しいって言ってくれたな……

「……また一緒にやろうか。三人で」

「本当かい?ありがとう美咲!」

「やったぜ!ああ。ホッとした……」

こうして美咲は参加をする事になった。


そしてバーベキューの前日の土曜日のお昼前。

二人と材料を買い物に行くために、美咲はサッカー部の練習が終わるのを、グランドの隅で待っていた。

……東高校と練習試合か。懐かしい、この雰囲気。泥だらけのユニフォーム。傷だらけの足。ボールを呼ぶ声、フィールドに響くホイッスル……。


「あら?真田さんじゃないの。こんな所で誰を待っているの?」

背後からにこやかな声を掛けて来たのは、三年生の女子マネさん達だった。

「あ、優作と晴彦とちょっと」

「……へえ?ところで!お兄さんは元気?」

「はい。今は遠征で九州に行っています」

「今度連れて来てよ。ね。みんなも逢いたいよね」

五名の女子マネに囲まれた美咲は、ドキドキして佇んでいた。

……どうしよう。逃げなきゃ。

すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おーい。マネージャー?タオルー!」

遠くから叫ぶ声に、女子マネ達は振り返った。

「あらやだ?じゃあね。真田さん。翼さんによろしく!」

フィールドのベンチへ向かって走って行った彼女達の背をみて、美咲は身体の力が抜けた。

……今の声は、尚人か。サンキュー、尚人。

彼女は尚人に向って指で7としてから、3と9を表し、ピリオドを表す意味の左手でマルを顔の横に作った。

すると遠くの彼は鼻を摘んでみせた。この仕草は、NOとかNGの意味。

……要するにバカって事か。


ふと尚人から視線を横にした美咲は、純一と和希が頭に手を載せて、こちらを見ているのに気が付いた。

……あれは私を呼んでいるサインだ。セットプレイで一点入れたいと言うことか。

最近彼女問題で落ち込んでいた彼らだし。少しだけなら力を貸してもいいと思った美咲は、指サインで指示をだした。

……和希《1》は純一《11》にスクリーンをかけて。尚人《7》は和希《1》にパスを!

私は彼らに向かって指でサインをだし、スクリーンプレイを示すサインで腕をクロスさせた。

彼らはこの通りに動き、プレイが綺麗に決まった。

「和希、ナイスショット!」

決まったショットに仲間の歓声が上がりイエーイと和希と純一はハイタッチをしたけど、尚人は鼻を摘んで美咲を睨んでいた。

普通のスクリーンプレイはかけてもらった純一にチャンスが生まれるものだが、相手も純一に気を取られると考えている美咲は、あえてスクリーンを掛けた和希の方にシュートを打たせたのだった。

しかし、これはパスを出す尚人が分かっていなければできないセットプレイだった。



すると今度はフィールドにいた優作と晴彦が頭に手を置いた。美咲が来ている事を知っていた二人も美咲に甘えてきたのだった。

……仕方ない。セットプレイ。優作《3》から、晴彦《8》で。

美咲は指で3、と作り、右耳を引っ張り、今度は指で8を示した。中等部時代、何度も使ったサインに二人は頷いた。

……これで分かるはずだけど。どうかな?

そしてDFを前にしたドリブルした優作はいきなりくるりとターンして、敵を背にしたまま自分の右上後方にボールを軽く上げた。そこへ……。

「おお晴彦!ナイスシュート!」

仲間の歓声が上がった晴彦のヘッドシュート。ジャンプ無しのつっこみ気味のヘッドシュートはゴールのネットを揺らした。

……すごいな。体が覚えている感じだ……。

嬉しそうに走り回っている二人を美咲も嬉しく懐かしい気持ちで見ていた。

……あ。尚人がまた鼻を摘んでいる。私が勝手にサインを出したから怒っているのね。

ピ――――ツ!

ここで今度はコーナーキックになった。蹴るのは、尚人で彼は頭に手を置いた。

……仕方ない。純一《11》がショット。南東の風。背が低いディフェンスがいるゴールの手前に落とせ。

彼女は指で11を示し、ショットを示す拳を作った。そして、南東はその方向を指で示した。ゴール手前はバンザイのポーズで示した。


ピ――――ツ!ホイッスルと同時に尚人が蹴ったボールは綺麗な弧を描いた。

そこへ走り込んできた純一に当たらず……そのまま直接……入った。


「尚人!すげえな、今日はどうしたんだ?」

掛け寄って来た藤袴イレブンは尚人の髪を乱暴に撫でていた。

……あの笑顔、まんざらじゃないみたいだな。まあ、良かったかな……フフフ。


「……はい、魔女っ子確保!」

「ひいい?」

そういって陽司は背後から美咲の両肩をぐっと握った。

「おい、あれは中等部時代のセットプレイだろ。この俺が気付かないと思ったか、あ?」

「ごめんなさい。皆が呼んでいたから、つい」

力が強くて身動きが取れない彼女の耳元に、彼は頬を付けてそっとつぶやいた。

「……久しぶりに見てくれたと思ったら……全く」

「見、見てたよ?それに今日は、優作と晴彦に、頼まれ事があったから来たのよ」

「優作と晴彦だと?」

そういうと今度は美咲を背後からギュウと抱きしめた。

「ちょっと?」

「うるせ。奴らと何をするんだよ。またデートか?」

「ち、違うよ!他校とバーベキューだよ。去年陽司さんも出た奴!」

「ああ?あの河原の、そうか。お前手伝うのか……わかった」

やっと腕を解いてくれたので美咲はホッとした。

そんな美咲を陽司はじっと見下ろしていた。

「練習はもうすぐ終わるから。マネージャーにみつからないようにそこで待っとけ!」

そして練習が終わった優作と晴彦と美咲は、一緒に買い出しのために中央地区商店街に向い、そこで大量に仕入れて真田家に帰って来た。

そして三人の力を結束し、下ごしらえをすませ、明日の用意を終えた。




そして晴天の日曜日の朝9時。

優作父の車に迎えにきてもらい、美咲は荷物を積み会場の河原に到着した。

すでに他校の人も集まっていた。


「おはようございます!!よろしくお願いします!おはようございます!」

「……美咲。すごい気合い張っているね」

「何を言っているの、晴彦?第一印象が大事だよ」

「でもさ。美咲、本当にその恰好で良かったの?」

本日の美咲は麦わら帽子を被った中学時代のえんじ色の長袖ジャージ姿。長い髪は後ろで結び、マスクに軍手を付けていた。胸には真田美咲と記名までしてあるのだ。


「……おかしいかな?虫刺されと火傷が嫌だから。エプロンを付けるけど、汚れてもどうでもいい恰好で来たのよ」

「そ、そうか」

「……」

その時、ここを他校の女子が通過していった。

「おはようございます!あら、あなた藤袴の女子マネさん?今日はよろしくね」

「は、はい」

風にロングヘアをなびかせた白いノースリーブ。うっすらメイクで微笑んで、ミニスカートに生足でミュールを穿いていたお姉さま達。どうやら他校の女子マネさんみたいだ。

「……いい匂いがしたね。ああいうシャンプーの匂いってやっぱり男子ってぐっと来るの?」

「そうだけど、あのな?美咲、実は」

何か言いかけた晴彦を優作は待て!と制した。

「いいんだ晴彦!おい美咲?全然気にする事は無い。気合いはお前の方が勝ってるぞ!」

なぜか美咲を擁護する優作は、美咲に親指をビシと立てた。

「そうだよね。私達は料理を作りに来たんだから。気にしてないよ」

それに今年は昨年の名誉挽回に来た彼女は、そもそも助っ人なので目立たない方はいいと考えていた。


そして開会の時刻に親睦会が始まった。

藤袴サッカー部は事前にお願いをして、鉄板焼きを担当させてもらう事になっていた。そこへ運営関係のサッカー部員が顔を出した。

「こんにちは!僕は主催の牡丹高の二年の河合です。藤袴は三人だけなんだね」

おそろいの薄いピンクのポロシャツ姿の牡丹高校。背後のはサッカー部員が10名程控えていた。

「ああ。去年はうちの先輩が迷惑かけたそうで。今年は僕らで何でも手伝うから」

晴彦の言葉に、河合は仲間をちらと振り返った。

「君達には罪は無いけどさ。スイカ割りは軽く棒を当てるだけって約束なのに、バッドで叩き割って食べられなくしたり、水風船でサッカーをしてみんなをずぶ濡れにさせたり。他にも色々あったよ……。僕らは後輩として見学していたんだけど、見ていて面白かったよな?」

牡丹高校の部員たちはアハハと笑い飛ばしていた。失礼な笑いであったが、事実なので三人はじっと耐えていた。

「今年は俺達そんな事しないから。安心してくれよ」

「それはそうと、女子マネの真田さん?君は真田翼さんの妹さんでしょう?僕の兄貴は選抜チームで同じ部屋に泊まったことがあるんだ」

「同じ部屋……もしかして、三年前の中央選抜ですか」

「そうだよ。だから今回の参加者名簿をみて君がどんな女の子か、楽しみにしていたんだ。でも、君のその恰好、本気なの?」

腕を組んだ河合は、うすら笑いを浮かべた。

「は?」

するとここで優作が代わりに話した。

「河合。うちの美咲はこれでいいんだ。それにこれは親睦が目的だろう?張り合ってどうするんだよ。料理ができたら声をかけるからそれまで時間をくれよな」

やっと帰って行った牡丹高サッカー部員のピンクの背をみながら、はあと優作が溜息をついた。

「……あのね。さっきからなんなのよ。恰好がどうとか」

「優作。何も言わないのは美咲に悪いよ。あのさ、実は」

晴彦はそっと彼女に話しをしてくれた。

「はあ?『中央地区誰が一番綺麗か女子マネコンテストぉ』?」

「しい!声が大きいっ」

「これってさ。翼が始めた企画らしいぜ。優勝した女子マネは特典として好きなサッカー部員と一日デートができるんだ」

「頭が、痛い……」

先ほどから他校の女子マネのおしゃれの入れ方が異常だと思ってた美咲はようやく納得した。

「道理で私が鼻で笑われるわけだ……」

「ごめんよ。この話しをしたら美咲が協力してくれないと思ったんだ」

「……確かにそうだね。でも、優作の言う通りだよ」

「み、美咲?」

美咲は麦わら帽子をはずし、代わりに白いタオルを頭にぎゅうと巻いた。

「藤袴の要、ブランチの晴彦!鉄壁のセンターバック優作!……」

「はい」

「はい!」

「今日はうちのバカの名誉挽回に来たんだし、それにこれは親睦でしょう?」

「「はい!」」

感動でうるうるの晴彦と優作は勇ましい後輩を見上げていた。

「だったら私の見た目は二の次よ!勝負するなら味で勝負!これが私の生きる道!さあ、二人も頭にタオルを巻いて!」

「「はい!」」

二人は美咲に手伝ってもらいタオルを頭に巻いた。

「用意はいい?じゃ、円陣組むよ」

三人は小さな円陣を組んだ。

「行くぜ!ふじばかまーふぁいと!」

「「「おう!」」」

こうして美咲達の藤袴高校は、名誉挽回の焼きそばを焼き始めのだった。



つづく
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